前代未聞のメルケル首相の国民へのアピール宣言によって第1期ロックダウンが始まって早1年が経過しています。新型コロナウィールスは世界を闊歩し生きるものへの挑戦のように振舞っています。それを受けて世界各国でのワクチン開発も急速でドイツでも80歳以上の人々からのワクチン接種が始まり次第に対象枠が拡げられてきています。自分自身を守りまた社会を守るためにはワクチン防接種は広範囲に実施しパンデミックを終息させる不可欠の方法と考えられています。新しいワクチンでありいろいろな不安や知りたいことがあるということで竹の会では当地にて医療者としてご活躍中の馬場恒春氏に「コロナ禍のワクチン接種」に関してまとめていただきました。
- なぜワクチンが必要ですか?
- 対人間隔とマスクだけでは不十分ですか?
- ワクチンの効果は十分と言えますか?
- ワクチンで副反応が心配ですが?
- アレルギー疾患を患っていますが?
- ワクチン効果の持続期間は?
ワクチンの役割も含め、現在までに分かっていますことをこれらの疑問のお答えします形 で以下に記させて頂きます。
どうしてワクチン?
私たちは人間の長い歴史の中で病原菌がもたらす危機に何度も打ち勝ってきました。特に 近年において大きく貢献したのが、① 衛生状態の改善、② ウィルスに対するワクチンの普及、そして両者を可能にした ③ 経済の発展です。
医学がこれほど進歩した今日でも、まだ多くのウィルスの病気に対して特効薬というもの がありません。命に関わるような、または重い後遺症を残す可能性のあるウィルス感染症 に対し、ワクチン接種が自分自身と社会を守る最も効果的な予防法となっています。
対人間隔とマスクだけでは不十分ですか?
路上ですれ違う人々の誰がウィルス保菌者か分からない状況の中で、感染者と接する機会 を減らし(対人間隔、長距離移動の制限)、ウィルスを体内に入れない工夫(マスク着 用、換気)がウィルス感染を予防する基本であることは言うまでもありません。
私たちは皆、今はコロナ禍という嵐が過ぎ去るのを今かゝと待つような気持ちですが、ど うもこのまま自然に収まるとは思えなくなってきました。社会生活を営み、経済活動を行 う私たちは、今後何度もロックダウンを繰り返すことも、巣ごもり生活を続けていくこと も容易ではありません。そのような中で、有効なワクチンが手に入る状況になったことは 1つの希望とも言えます。
ワクチンによる予防効果は?
①ビオンテック社・ファイザー社のワクチンと ②モデルナ社のワクチンは、共に2回投与 後の短期間における予防効果は高く、90%以上と発表されています。③アストラゼネカ社 のワクチンでは約60~70%とされていますが、共同開発者のオックスフォード大学の最近 の発表では、ワクチン1回投与だけでも接種後22~90日間の予防効果が76%あったとい うことです(表1.各ワクチンの効果と副反応のまとめ)。いづれのワクチンでも感染後に重症化して入院するリスクが大幅に減 ることが示されています。ただし、南アフリカ変異株へのアストラゼネカ社のワクチンの 効果は他の2つのワクチンに比べて限定的と言われています。
副反応が多いと聞きましたが?
現在ドイツで用いられている3種類のワクチン製剤とも、① 接種部位の局所の痛みが7~ 9割と最も多く、② 倦怠感、発熱、頭痛、悪寒などの症状も最大で半数近くの人に認めら れています(表1.各ワクチンの効果と副反応のまとめ)。一過性とは言え、従来のワクチンに比べて副反応の出現頻度が高いこ とされています。
接種部の痛みが多いということで、正直恐れを感じながらの接種となりましたが、全くと 言ってもよいほど痛みもなく、注射前の不要な緊張感の方が大きかったような気がしま す。敢えて言うならば、筋肉注射の後に腕を揉まなかった時のような張った感じが翌日認 められました(ドイツでは腕は余り揉まないようです)。
アナフィラキシーショック?
重篤な副反応だけをみますと、アナフィラキシー(短時間で起こるアレルギー反応)は英 国で接種10万回当たり1~2人、米国では100万回あたり5人です。ビオンテック社・ ファイザー社のワクチン接種が始まったばかりの日本ではやや多く、14万8千回の接種で 25人(ほとんどが女性)と発表されています。製剤のバッチとの関係、不安からの過反応 なども含めて議論されているようです。米国やイギリスのワクチン接種で、特にアジア系 の人に副反応が出やすいということは言われていないようです。
血栓症との関係は?
欧州内でアストラゼネカ社製の特定バッチ番号のワクチン製剤により複数の血栓症(血管 の中で血液が固まって血流を遮断する病態)が報告されました。独医薬品規制当局である パウル・エールリヒ研究所によりますと、ドイツでも今までアストラゼネカ社のワクチン の接種を受けた約160万人のうち7名に脳の静脈血管の血栓症が確認されたことより、こ の3月15日よりその因果関係や安全性が確認されるまでアストラゼネカ社製のワクチン の使用を一時見合わせることになりました。
アレルギー症がある人は?
ドイツに暮らす人の4人に一人は花粉症があると言われています。前述のパウル・エール リッヒ研究所の解析では、アレルギー疾患(花粉症、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、ア レルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎)によりワクチン接種後の副反応の増加はみられて いないということです。また食物アレルギー、経口の医薬品、昆虫のアレルギーのある人 もワクチン接種を受けられます。これらのアレルギー歴は、化粧品のアレルギーも含め、 Impfzentrumから送られてきます問診票に記載してください。
以前の予防接種でアレルギー反応を起こした人は、ワクチン製剤の添加物が原因のことも ありますので、忘れずに必ず記載してください。
体重の軽い人?
体の大きなドイツの人も体の小さな日本人も、体重の違いによりワクチン量の調整は行わ れていません。体が小さく上腕の筋肉量が少ない人に対しては例外的に大腿部にワクチン 接種が行われることがあります。また超肥満の人(Body Mass Indexが40kg/m2以上)は 新型コロナウィルスで重篤化するリスクが高いため優先的に接種が行われます。
Impfzentrum の印象
竹の会のウェブサイトに掲載されています「体験談」にもありますように、接種会場内は 分かり易く、多くの誘導員が待機していて機能的に運営されています。ドイツのサービス に慣れた人が「ここはドイツ?」と思うくらい、会場スタッフの方々の対応が丁寧で親切 との印象を持たれる方が多いようです。
ワクチン効果の持続期間は?
世界で新型コロナウィルスのワクチン投与が開始されてまだ日が浅いため、実際の効果の 持続期間は分かっていません。現在の3製剤の長期間にわたる有用性はこれから明らかに なってきます。インフルエンザワクチンのように半年程度で効果が薄れてくる可能性や、 今後のさらなるウィルス遺伝子の点変異(による変異株)によってワクチン効果が薄れる 可能性も否定はできません。
大切な集団免疫って?
ワクチンは個人の感染を予防するだけではなく、ワクチン接種により人口の一定割合以上 がウィルスに対する免疫を持つようになると、人から人への感染の機会が減るため、免疫 を持たない人でも感染も起こりにくくなります。これを「集団免疫」とよびます。各国で 国を挙げてワクチン接種に取り組んでいます根拠の1つにもなっています。集団免疫は多 くの人がワクチン接種を済ませることによって初めて成り立つものです。
リスクとベネフィット(Risiko und Nutzen)を考える
私たちは誰でも副反応だけは避けたい気持ちを持っています。手が届くようになった新型 コロナウィルスのワクチンとその一過性の副反応の可能性、両者を考えるとどうしたら良 いかと悩むものです。「君子危うき(感染、副反応)に近寄らず」か、「虎穴(ワクチン) に入らずんば虎子(免疫)を得ず」か、という心境です。医学的にはこのような時、自分 にとってリスク(不利益)とベネフィット(得られるもの)のどちらが大きいかで判断す ることになります。現時点では恐らくワクチン接種の利点の方が遥かに大きいような気が します。
少しむずかしい参考1:コロナワクチンの作用機序は?
ドイツで現在用いられているワクチンは、コロナウィルス表面のスパイク状の突起(太陽 のコロナのように見える部分)に対する免疫を作るものです。ウィルスはこの突起により 人の細胞内に入り込んで自己増殖するため、ワクチン接種はウィルスが細胞の中に入るの を抑えることになります。
少しむずかしい参考2:あなどれない重症化・合併症の脅威
新型肺炎による重篤な呼吸障害は、私たちの体の免疫がウィルス感染した肺の細胞を攻撃 するため必要以上に過剰反応して正常な細胞までを壊してしまうために起こると考えられ ています。
障害が起こりうるのは肺だけとは限りません。例えば臭覚神経を栄養している血管(嗅覚 障害)、脳(脳梗塞)や心臓(心筋梗塞)、足の血管(血管性壊死)でも障害が起こるこ とがあります。また退院後も、疲れ易さ・呼吸障害などの後遺症が約半数近くもの患者に 残ることが報告され、新型コロナウィルスの感染症の問題として捉えられています。
以上、簡単ではありますが、ワクチンについてもっとお知りになりたい方、これからのワ クチン接種を迷われていらっしゃる方々の多少のご参考として頂ければ幸いです。
馬場恒春 拝
2021年3月17日
馬場恒春氏プロフィール:内科医師、医学博士、元福島医大助教授。
ノイゲバウア馬場内科クリニックを開設、分院 (Prinzenallee 19) で診療。
在独医療者のネットワークJamsnet ドイツ代表、Jamsnet ワールド会員